2020年11月18日、中国経済連合会セミナーにて、株式会社アイデミーのエンタープライズサービス部長、桐原憲昭が「DXを推進するAI人材育成のあり方 ~ゼロから始めるDX推進~」と題して講演しました。
※記事化のために一部を編集しています。
桐原憲昭
株式会社アイデミー エンタープライズサービス部長
外資系ITベンダー、外資系人材育成・組織変革コンサル会社、及びリスクコンサル会社などを経て現職。企業向けのAI人材育成をはじめとする、AI内製化に向けた支援に携わる。筑波大学大学院非常勤講師(リスク工学専攻)、一般財団法人DRIジャパン理事。
ビジネスの現場では何が起きているのか?
DXとは?
ここで、簡単にDXの定義をしておきます。正式な概念は、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされています。簡単に言えば、これまでのICT活用は、あくまでも業務の中での補助的なツールでした。一方、DXは部分活用ではなく、それをもってビジネスモデル自体を変革しなければならないような、非連続的な進化を企業や組織に求めるものである、とも言えます。
DXの位置づけ
改めて、DXの位置づけを絵に表した図をご覧ください。
これまでIT化と言えば、ITを使った部分最適がほとんどでした。ただ、それはあくまでもソフトウェアの中の閉じた範囲であり、まだまだ全体最適にはほど遠いものでした。今後DXが進むにつれて、ソフトウェアだけではなく、IoTに代表されるセンサー、ロボット、AIを駆使して、ソフトとハードが一体になって、それらが相互作用するデジタル社会を革新していかなくてはならない、と叫ばれています。
ご覧いただいているようなイメージで、今後はDX、ビジネスモデル自体を変革する必要があり、その際にAIやIoTがビジネスドライバーになると言われています。
AI市場規模 ~国内
こちらは、2019年に富士キメラ総研が発表した国内のAI市場規模です。約10年後の2030年には、現在の約5000億円からおよそ4倍強になると予想されています。
内訳を簡単に解説すると、一番大きい市場は金融だとされ、およそ4600億円程度の規模で、顧客審査、管理、予測、業務効率化など、多方面で利用が進む予想です。その次が組み立て製造業となり、約2600億円の規模でスマートファクトリーに代表されるような工場での活用。続いてはプロセス製造業で、化学工場に代表されるようなプラントにおけるセンサーデータをいかに活用するか、というところです。
金融、組み立て、プロセス製造業を合わせると、約1兆円になりますので、3つの業種が全体の半分を占めると見れば間違いないと思います。このように、今後もAIの分野は着実に推移、増加していくことが予想されています。
AIの導入状況 ~国別
こちらは、国別のAIの導入状況を示したグラフです。日本は残念ながら先進国の中では最も導入が進んでいません。
ダントツで導入率が進んでいるのは中国です。中国ではAlipayを代表とするモバイル決済が浸透していて、次世代AI発展計画と呼ばれる国主導の施策で、国の予算をBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)といった企業に予算を配分し、プロジェクトを進めてきた経緯があります。
一方、アメリカは中国とアプローチが逆で、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)がボトムアップでイノベーションを生み出してきたのが特徴です。
国内企業におけるAIの利用状況
こちらのグラフは、2019年の国内企業におけるAIの利用状況です。
売上高1000億円以上の大企業であっても、導入しているのは17.2%にとどまっています。実証実験を行っている15.6%の企業と合わせても、およそ30%に過ぎません。売上高1000億円未満の中堅~中小企業においても非常に少なく、5%にも満たない状況です。先述した国別のグラフと合わせて、 日本ではまだまだ実装が進んでいないことが伺えます。
企業経営は、AIによる課題解決と価値創造が求められる
現在、企業経営はこういったAI、IoTなどの先端技術によって、課題解決と価値創造を求められています。多くの企業が抱える経営課題として、業務の高コスト化、人材不足、製品・サービスのコモディティ化(日用品化)が挙げられます。
このような状況下で、AI、IoTによって、プロセスイノベーション、あるいはプロダクトイノベーションを起こして、解決していかなければならないと言われています。
プロセスイノベーションとは、やり方を変える、あくまでも方法論です。一方、プロダクトイノベーションは、結果そのものを変えていくこと、つまり製品やサービスそのものを大きく変えるようなものが期待されている、ということです。
ここで言いたいのは、これによって労働生産性を良くしていかなければならないということです。この数値は、国がICTの施策を実施している企業とそうでない企業の2グループに分けて、3年間にわたって追跡調査し、労働生産性の伸びを実際に測った平均値です。
このようにAIなどを活用することによって、さらに労働生産性を向上させていかなければならない、2.5倍、4倍を目指して社内で取り組んでいかなければならないと言われているのです。
企業におけるAI活用の課題と機会
本日2つ目のトピックとして、企業におけるAI活用の課題と機会をまとめてみました。
企業のDX導入における課題
まず、DX導入における課題として、費用対効果とリテラシーの2つの壁を乗り越えることが必要です。費用対効果の問題としてよく言われるのは、IT導入における全般の課題であるコスト負担、導入効果が不明であること、従業員のスキル不足です。一方、リテラシーに関しては、AI・IoT導入に限定した課題として、社内のノウハウ不足、イメージできないこと、理解不足が指摘されがちです。
とは言え、この10年間、安価で使いやすいクラウドツールが普及、多様化してきました。それによって、地域・中小企業も、大きなコスト負担やノウハウを必要とせずに、デジタル化による生産性の向上が可能になってきています。そのため、企業の規模に限らず、こういったツールを使えばこのような諸問題をクリアできる可能性があるのです。
日本企業のAI活用課題は、組織開発
AI活用に関する一番の問題は、人材不足です。ここで強調したいのは、日本だけではなく、実は諸外国も同じ課題を持っていることです。アメリカも中国も、人が足りないとよく言われています。ただ、日本が深刻なのは、各国の平均値よりも15%下回っていることです。冒頭でご紹介した諸外国よりも、日本は人不足の問題がさらに大きいと、データから出ています。これは今後の取り組みにおけるネックになっていくだろうと思っています。
AI人材の需給ギャップの見通し
AI人材に関しては、複数の調査会社の平均シナリオを計算すると、今後は年間およそ16%程度でグロースしていくと言われています。悲観的に見ても10%くらいです。そうなった時に、数万~数十万人規模でAI人材が足りなくなります。IT人材に限るとさらに大きくなりますので、やはり今後変革を進める上では人材について考えていかなければなりません。
そして、人材市場にアクセスされた方はおわかりになると思いますが、AI人材は非常にハイアリングコストが高いという問題もあるため、なかなかそのあたりがうまく行かないのも実態だと思います。
企業のAI活用における機会
企業におけるAI活用の機会については、むしろ中小企業こそ導入効果が大きいと言われています。この図は、縦軸を共通課題と自社固有課題、横軸をスモールデータとビッグデータとしています。共通課題においては、いわゆるSaaSを利用すればいいわけです。世の中にあるクラウドのサービスを利用して、それをもとに業務改革を進めていくのが効率的かと思います。
問題は、自社の特徴を差別化する固有領域に対してです。実験に適した現場を持ち、迅速な意思決定が可能で、0からラベル付きデータを蓄積できるような中小企業こそ、効果が大きく、生産性の伸びが期待できると言われています。
中小企業におけるAI導入インパクト
こちらは中小企業にフォーカスしたデータです。2025年までにこれだけの経済効果が見込まれています。最も効果のある分野の上位には、予知保全や需要予測などが挙がっています。また、棒グラフの面積は、各業界におけるインパクトの大きさを表しています。
導入インパクトが大きいとされる5つの領域
上位の5つを見ていきましょう。まずは予知保全。工場にある機械などにセンサーを埋め込み、AIを活用して壊れる前に異常を検知し、対策を取ることが期待されています。また、予防補修での交換タイミングをあらかじめ検知し、壊れる前に交換するという使い方などがあります。
小売や製造業に共通するのは、こういったデータを使って、AIで売上予測をする需要予測です。それから、紙のデータをスキャンした結果、AIでデータ化する経理関連の業務効率化。このOCRと呼ばれる技術は非常に精度が高く、99%以上ほぼその通りに読み取り、データ化、デジタル化が可能です。
さらに、データマーケティングでの活用ですね。実店舗、オンライン、さまざまな顧客属性データをAIで解析し、本当の意味での1to1のマーケティングを行えるようになってきています。これまでは、マスマーケティングしかできなかった業界でも、こういった1to1ができるようになってきているということです。そして不良検知です。これは予知ではなく、流れてくる生産品の、最後の不良品検査の工程で、画像データを使って不良品、良品を検知するものです。これも、製造業では導入が非常に進んでいます。
【事例】領域① 工具の振動計測により折損の予知・検知
まずご紹介する事例は、従業員規模が200人規模の会社です。大企業でなく、中小企業であっても非常に効果が大きいことを解説します。
これは、工具の振動計測により折損の予知・検知をしている場合です。センサーをつけて、そこからデータを取ることにより、それまで一定回数後に交換していた工具を、個々の工具の状態に基づいて、適切なタイミングで交換することが可能になりました。これによって、熟練工の整備工数が大幅に減少したほか、停止による生産ロスも削減できるようになっています。こういった効果が見込めるわけですね。
【事例】領域② 来客予測数予測に基づき仕入れ効率化
こちらは、来客数に基づいた仕入れの効率化といった観点での事例です。
ゑびやという老舗老舗飲食店は、従業員数50名。こういった規模の会社でも、これまで勘と経験に頼っていた発注を、来客予測を指標にすることで、廃棄ロスを72%削減できました。来客数のアップダウンの波が激しいときであっても、従業員を解雇をすることなく、雇用を維持したまま売上を4倍にしたことが発表されています。ゑびやの事例はさまざまなところで取り上げられていますので、検索するとさらに細かいデータが見られるかと思います。
質疑応答
Q. 従業員が500人未満の中小企業でも、外注ではなくAIの内製化が必要なのでしょうか?
今日お見せした事例のように、50~200人規模の中小企業でも取り組みが始まりつつあります。私は、中堅・中小企業こそ効果が大きく、導入すれば本当にインパクトが大きいと思っています。
外注と内製化についてですが、全体構想、ビジネスプラン、ビジネスデザインなど、いわゆるプランニングは自分たちでできるようになっていただきたいです。技術的な部分ではできないこともあるでしょうから、それを外注していただければいいのかなと思います。
これを全て外部に丸投げしてしまうと、自分たちの思い描いたものとのギャップが生まれることが多いのです。最終的にはベンダーに囲い込まれることもありますので、プランニングのフェーズは自分たちが基礎知識をしっかり持って、ベンダーと会話ができるくらいのレベルになっていた方がスムーズに進むと思っています。
Q. AIの導入時の「そもそも、AIで何がしたいかわからない」というハードルについて、どのようにお考えですか?
「AIをどこに活用できるか」という視点では、手段と目的が入れ替わってしまうことが往々にしてあります。まずは自社の業務課題とは何なのか、業務課題の洗い出しを行った上で、そこに対してAIをどのように活用できるか、という視点を持たなければなりません。
もちろん、業務課題の上には経営課題があるわけですから、それらを洗い出す中で、AI課題を抽出していくプロセスを踏んでいくべきだと思います。弊社でも、人材育成後はAI課題の抽出、それからPoCというプロセスを経て、意味のあるAIの導入を支援しています。
Q. DX/AIプロジェクトを社内で円滑に進めるためのポイントとは?
大事なのは受け止め体制です。上層部の方も、eラーニングの基本的な講座だけでも構わないので、基本的な理解をしていただきたいですね。トップの理解がないまま途中で頓挫してしまうケースが多くあります。上層部の方には基本的なところを理解いただいた上で、旗振り役として社内を鼓舞していただければと思っています。
DX推進室やAI推進室などを作れば社内が動くかと言えば、そうではありません。やはりトップと現場を巻き込んで、変革の土壌を作っていくのが重要なのではないかと思います。
Q. AI業務において管理職とプレイヤーの観点から、まず着手すべき一手は何でしょうか?
これはまさに、eラーニングでの人材育成です。本当は管理職の方にもプランナーとしてのビジネス視点を持っていてほしいのです。「若手のエンジニアにマスターさせて、彼らにやらせよう」という話がよくあるようですが、そういう方が頑張ったとしても、事業部門での受け入れ体制ができていなければ、ほとんどのプロジェクトは理解されないまま頓挫してしまいます。組織での受け止め体制、理解、支援、サポートという観点でも、管理職の方もビジネスレベルでは身につけてほしいと思っています。
Q. AI導入にあたっては、どの部門への導入が最適でしょうか?
先述の通り、事業課題をしっかり広い視点で洗い出して、どの課題が事業にインパクトを及ぼしているのかをまず見極めると良いと思います。その上で、もしかしたらAIでなくても解決できることも出てくるでしょう。AIも手段なので、AIで効果が出るのか否かを確認していただきたいです。
Q. 「結果が出るまで支援する」ことについて、具体的に教えてください。
先述の通り、課題を定義、抽出して、PoCを作って、それを運用します。そこで実際にモデルを実装して、そこでの精度を含め、期待した効果が出ているかを可視化しながらサポートさせていただく、といった意味です。
私どもは、プレローンチながら運用プラットフォームのサービスも持っていますので、実際に使えるようになるところまで、プラットフォームも含めて支援させていただいている、ということになります。