不動産アセット・マネジメントビジネスや再生可能エネルギーへの投資、農業ビジネスへの参入など、さまざまなハイブリッドビジネスに取り組み、事業ポートフォリオの拡充が進む大和証券グループ。
その主要子会社であり、主として有価証券の売買等に係る業務を行っているのが大和証券株式会社(以下:大和証券)です。
DXという言葉が世の中に急速に浸透し、金融業界でも生き残りをかけて業務プロセスや組織の見直し、さらには、新たな事業領域への挑戦など、変革が求められる時代となる中、大和証券では、いったいどのようにDXを進めているのでしょうか。
デジタル変革に伴走する株式会社アイデミー 代表取締役執行役員 社長CEOの石川聡彦が3回の連載を通じて迫ります。
中編となる本記事では、IT統括部デジタルIT推進室の植田信生室長に、大和証券でのDX人材育成について伺いました。
前編:大和証券のDX事例から学ぶ。金融業界のDX推進術と牽引人材の育成法【前編】
DX推進をしていく上で必要な情報をどのように収集されていたのですか。
外部の動向調査とユーザー(お客様、営業員等)のニーズの把握という2つの観点が重要だと考え、情報の収集と活用を進めています。
外部動向の調査は社内のDX化を進めるうえで欠かせません。各部署の担当者が専門領域に関わるDXの最新情報について、セミナーや外部パートナーからの意見を収集し、社内に知見の蓄積をしています。また、その知見をもとにDXに関する研修コンテンツ等を社内に展開しています。
内部のニーズ把握については、社員がデジタルツールを活用した業務改革・改善の要望をいつでも投稿できる「システムに関するご要望」というアンケートフォームを設置しています。
営業員、支店社員を中心に社内システムの改善点や自動化してほしい業務内容等の意見が日々寄せられています。
これらの要望は各システムの担当者だけでなく、部長・役員も見られる場所で受け付け、回答内容を管理しています。
併せて、2022年度は都内近隣の営業店を訪問して意見・要望のヒアリングを実施したり、実際にシステムを使っている様子を近くで見学したりする機会をつくりました。
現場の声を吸い上げる仕組みが整えられているのですね。実際にどれくらいの数のご意見やご要望が集まっているのですか。
2022年度の営業店訪問時には合計で868件もの意見・要望をいただきました。
意見を聞くだけで終わらせるのではなく、要望の分類・分析を行い、定期的に改善に向けた対応状況の確認やフィードバックを行うことで、現場にいる営業員、支店社員も含め会社全体でDXを進めていこうという意識を醸成しています。
DX推進において重点的に取り組まれたことについて、お聞かせください。
DX推進のためには、全社員がDXを自分事として捉え、データやデジタルを起点としたビジネスモデルの変革を現場発信で目指すことが重要だと考えています。特に“DXを自分事として捉える”社員のマインド醸成に力を入れてきました。
いかに“DXを自分事として捉え”、実践意義を感じてもらうかは、難しいですが、組織で新しい取り組みを始める上で重要なポイントですよね。大和証券ではどのように取り組まれたのでしょうか。
データ駆動推進協議会(※1)の設置や役員・各部室店長向けの研修を実施し、マネジメント層を対象としたマインド醸成を図りました。
また、CoE(※2)によるDX案件の技術的サポート、最新技術や他社事例の共有、人事部主催のスキル研修での講義の提供を通じてボトムアップでのマインド醸成も促しました。これらの取り組みを通して、少しずつですが社員のマインドに変化があり、会社全体のDX推進につながったと実感しています。
様々な取り組みを体系立てて実践していらっしゃいますが、DXを推進していく上で特に鍵となったのはどのような点でしたか?
当社では“環境”、“人材”、“文化”の3領域でDXに取り組んでいることは前編でご説明しましたが、これらを進めるための大前提として、経営層、マネジメント層のコミットメントが重要です。
当社では経営トップから社内にDX推進への宣言があったことから、推進するうえでの関係部署とのコンセンサスも得やすかったため、社員全体のモチベーションも上がりましたし、会社全体でDXを進めることができました。
DXを進めていく上で感じた金融業界ならではの課題はありますか?
金融機関はお客様の個人情報をお預かりしているため、DXを推進するうえではデータ漏洩等のセキュリティ対策が重要課題になると思います。
近年様々な最新技術が出てきている中で、それらのメリットを享受しながらビジネスを変革していくことも必要ですが、一方でお客様の大切な資産や、個人情報については十分注意し、安全に取り扱わなければなりません。
当社ではゼロトラスト型セキュリティ基盤の構築を中心とする技術的対策や、教育・訓練の充実による全社員の意識向上を含む人的対策強化を行い、セキュリティ対策に臨んでいます。
次回、後編では、DX人材育成の背景、DX人材育成のための具体的な方法などについて更に掘り下げて伺っていきます。
※1:社長が議長を務め、各ビジネス担当役員が参加する協議会。部門横断での具体的なビジネス施策について議論・検討を行っている。
※2:CoEは、Center of Excellenceの略。データやデジタル技術に関する知見・ノウハウを蓄積し、ビジネス部門をサポートする機能
石川聡彦
株式会社アイデミー
代表取締役執行役員 社長CEO
東京大学工学部卒。同大学院中退。在学中の専門は環境工学で、水処理分野での機械学習の応用研究に従事した経験を活かし、 DX/GX人材へのリスキリングサービス「Aidemy」やプロジェクトの企画から運用までを一気通貫で支援するDXプロジェクト伴走支援サービス「Modeloy」を開発・提供している。法人向けオンラインDXラーニング「Aidemy Business」は大和証券様をはじめ、金融業界でも活用が進む。著書に『人工知能プログラミングのための数学がわかる本』(KADOKAWA/2018年)、『投資対効果を最大化する AI導入7つのルール』( KADOKAWA/ 2020年)など。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2019」「Forbes 30 Under 30 Asia 2021」選出