化学・創薬メーカーのDX 〜研究現場のAI活用とAI人材育成について〜【セミナーレポート・後編】

この記事は2021年2月25日に開催されたWebセミナー「化学・創薬メーカーのDX 研究現場のAI活用とAI人材育成について」のレポートです。

ゲストに国立研究開発法人 産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 主任研究員の矢田陽氏をお招きし、 株式会社アイデミー代表取締役執行役員社長CEOの石川聡彦とともに、研究現場におけるAI活用と人材育成についての講演を開催しました。

この記事ではセミナーレポートの後編として、株式会社アイデミー代表石川の講演部分をお届けします。

※記事化のために一部を編集しています。

矢田 陽(やだ あきら)氏

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
触媒化学融合研究センター フロー化学チーム 主任研究員

石川 聡彦

株式会社アイデミー
代表取締役執行役員社長CEO

「化学・創薬メーカーにおけるAI人材育成の3つのポイント」石川 聡彦

なぜDXとAIが注目されているのか

2020年、世界最大の時価総額を持つ自動車メーカーがトヨタ自動車からテスラに変わったというニュースがありました。そこからテスラの時価総額はほぼ倍となっています。テスラのイメージとしては、スポーツカーメーカー、電気自動車の会社、創業者であるイーロン・マスク、そしてデザイン性などが挙げられます。

特にシリコンバレーでは「iPhoneにタイヤを付けたデバイスメーカー」、「自動運転・運転のソフトウェアの投資をしている会社」などと評価される事が多いようです。テスラという会社を一言で表すのは非常に難しいのですが、AI/IoTなどのデジタル技術を駆使して自動車のデジタルトランスフォーメーションに挑戦している会社だと評価できると思います。

テスラを象徴するニュースとして、「テスラの自動車はバッテリーが切れても走行できた」というものがあります。2017年9月、アメリカにハリケーンが襲来した際、フロリダの居住者に避難勧告が出されました。テスラは電気自動車のため、iPhoneなどと同様に充電が切れていると運転できません。

しかし、充電が切れていたはずのテスラの車がなぜか正常に動き、その結果ドライバーは安全に避難できたというニュースでした。なぜ充電が切れた車であっても正常に動いたのでしょうか。

テスラのある車種は、バッテリーが75kWhと60kWhの2種類で販売されています。ただ、実はどちらも積まれていたバッテリーは同じでした。60kWh分の車については、差分の15kWh分を使えないようにソフトウェアで制御していた、というのが答えです。ハリケーンという緊急時に対応して、テスラはソフトウェアの制御を解除し、結果としてドライバーは15kWh分の距離を避難することができました。

この事例はテスラの善意で制御を取り払った話ですが、ハードウェアをソフトウェアで制御することでビジネスモデリングのフレキシビリティが実現できることがわかります。例えば、スマートフォン経由で1000円課金すれば、1日だけ15kWh分の電池を増やすようなことが技術的に可能だということになります。

特に物作りの会社は「モノ売りからコト売りへ」といったキーワードで、売り切り型からサブスクリプション型のビジネスモデルへ変革しています。ハードウェアを売って終了、ではなく、その先に顧客との継続的なタッチポイントを作っていくように変化しているのです。これが昨今の経営課題と認識されていることも多く、この課題の解決策の一つとして「ソフトウェアで制御する」ことが挙げられます。テスラはそれを先駆けて行っているハードウェアメーカーだと思います。

Facebookの取締役でもある投資家のマーク・アンドリーセンは約10年前、既に”Software is eating the world.”と言っていました。それがこの10年間で、まさしくその通りに進んでいることがわかりますね。このような変化が金融、自動車、半導体、IT、エンターテインメントなど様々な産業で起こっています。またそれぞれの産業全てにおいて、競合がGAFAM、BATなどのIT企業に変わってきています。これは創薬・科学系のメーカーであっても同様だと認識しています。

DXの興隆とその定義

こちらは、ガートナーの「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2019年」という、技術トレンドをマッピングしたグラフです。

DXの中でも最も注目される技術であるAIは現在幻滅期で、ジェットコースターのごとく坂を下っている最中となっています。そのため世間では「AIブーム」は終わったとささやかれています。

ただ少し思い返してみると「AIブーム」の前にもあるブームがありました。2012年あたりから始まった「ビッグデータブーム」です。皆がスマートフォンを所有し始め、インターネットに接続されたデバイスを持っていることが普通になり、企業はあらゆるデータを解析できるようになりました。

その後、データはあるがそれをどのように利用するのかというユースケースが考えられるようになりました。その1つが人工知能、AIということになります。この「AIブーム」が2015年あたりから始まり、画像認識の性能がぐっと上がったことでディープラーニングが非常に注目され始めました。

一方、人工知能の課題として作成コストとメンテナンスコストの高さが挙げられます。データが古くなれば人工知能の性能が下がるため、繰り返し新しいデータをアップデートしてラーニングし直さなければなりません。これがAIの強みでもあり、弱みでもあります。通常のITシステムをメンテナンスするよりも少しコストが高くなるため、それを回収できるところでAIを使わなければならず、一方でコストが回収できないような分野ではAIというリッチな技術を使わなくてもよいと判断されます。

そんな中、2019年ごろからは最先端技術に捉われずデジタルの技術全般を用いて経営課題を解決していくという視点が重要視され、「DXブーム」が始まったと認識しています。

ここで、DXの定義を確認します。経済産業省によるとDXとは「データとデジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革する。そして競争上の優位性を確立すること」と定義されています。つまりAI/IoTなどのデジタル技術を駆使して新たなビジネスモデルを構築することになります。

過去には「守りのIT」と「攻めのIT」という言葉がありました。業務効率化に代表される「守りのIT」と、サービスの高付加価値化により顧客のユーザー体験を良いものにする「攻めのIT」です。DXはどちらかというと「攻めのIT」となります。その文脈で最先端技術であるAIと組み合わせて語られることも多く、多義的にDXと理解しています。

企業経営はデジタル技術による課題解決と価値創造が求められます。

上図にある「守りのIT」と「攻めのIT」のうち、DXの文脈においては「攻めのIT」によって高付加価値化、新規製品・サービスの展開を実現することが期待されている役割となります。

わかりやすく「攻め」と「守り」に分割しましたが、両方にまたがるものもありますし、「守りのIT」から始めた技術が「攻めのIT」に近づくこともあるので単純な二項対立の話ではありませんが、DXでは上記のようなプロダクトイノベーションが求められていることになります。

化学・創薬メーカーにおけるDX実現・AI導入の3つのポイント

化学・創薬メーカーにおけるDX実現・AI導入のポイントは、「ソフトウェアの内製化」「全社の巻き込み」「リーダー人材の抜擢」の3点です。また私たちは特に、DX実現・AI導入のためにはAIに強い組織、DXやデジタルに強い組織にすることが必要だと思っています。その理由も含めてそれぞれのポイントについて詳しく紹介します。

ポイント1:ソフトウェアの内製化

従来型のシステム開発は「上流から下流へ」、企画、仕様・設計、システム制作、そしてテスト、運用という流れで進みます。各工程の担い手も決まっていて、事業会社は主に企画を担当し、システム子会社が仕様・設計を明確にして協力会社がシステムを制作、そしてテストや運用を一部の専門会社が担当しています。このように、企画から実現までのフェーズによってステークホルダーが変わっていくことが、従来型のシステム開発の特徴です。これがウォーターフォール型のシステム開発(要件定義から始まって基本的には前に戻らない)で、ある種の分業体制だと認識しています。

一方で、最近ではアジャイル型の開発について耳にすることが多くなったと思います。要件定義を行ってすぐにプロトタイプを開発し確認するサイクルを細かく回す、エキュレーションを回すという表現もされますが、このような流れで試作品を作って本番運用する形です。

AIの開発やデジタルトランスフォーメーション、つまりビジネスモデルを変革するような開発には、アジャイル型の開発が向いています。AIの開発の効果や性能はやってみないとわからないことがありますので、できるだけ最小限のコストで始めることが重視されています。

また、ウォーターフォール型で開発すると、気づいた時には既に時代遅れの物ができてしまっているリスクがあります。ITデバイスの操作に慣れている昨今のデジタルネイティブなユーザーはより便利かつ上質な顧客体験を求めるため、企業はユーザーのニーズに合わせてシステムの触り心地に関わるUI/UXを絶えず変えなければいけません。

このことから、特にデジタルトランスフォーメーションを進める際には、正解のないトライアンドエラーのプロセスを重視する傾向があり、まず試作品を作ってユーザーの反応を見るスクラップアンドビルドが求められます。

アジャイル型の考え方をベースに作られたハードウェアの事例がこちらです。これは中国のアリババが作った、カクテルを自動で作るロボットアームです。シェーカーをシャカシャカ振ってカクテルを作るのですが、完成したカクテルをコップに注ぐ際に液体が溢れます。的確にコップに注ぐことができない性能で製品をローンチしたことについては驚きますが、これはソフトウェア的な思想で作られたプロダクトだと思っています。

つまり、ソフトウェアで制御されている部分については実際にローンチを試し、トラブルがあれば直せば良いという考え方です。同様に、特にDXについては、実際にローンチして受けたフィードバックをベースに修正するという考え方が必要だと思います。

以上のように、デジタル企業のソフトウェア開発のためには、企画、仕様・設計、システム制作、テスト、運用というフェーズにおいて会社ごとに役割分担するよりも、事業会社が先導しつつ専門的な箇所を各業者に手伝ってもらいながら開発を進めることが必要となります。今後全ての産業がデジタル企業になっていくと思いますが、開発構造はこのようなアジャイル型になり、DXを進めるためには「内製化」が必要条件になると考えています。

ソフトウェアの内製化の具体的方法としてはいくつかありますが、ここでは資本業務提携・合弁会社の設立や企業買収を紹介します。
資本業務提携、合弁会社設立のメリットは、ローリスクでデジタル開発に関するノウハウを得られるため施策を始めやすい点です。ただ、システム単位での受発注関係を崩せないため、ユーザー企業も理解が進まず本来意図していたシナジーが十分発揮できないケースも多いです。

企業買収(100%買収)では、特に取引先を買収することでスピード感のある開発が実現し、さらに重要度の高い案件が任せられるようになるメリットがある一方で、デジタル開発チームを持ちながら売却意向のある企業の数は限られている現状があります。技術やチームの採用目的での少人数組織の買収という要素が大きくなり、会社全体を変革するきっかけにはなりにくい印象です。

このようなことから、昨今では、資本業務提携・合弁そして買収などを契機にしながら、ソフトウェアの内製化に必要な大規模組織を動かすための社内人材を育成することが注目されています。私たちアイデミーはその文脈でサービスを提供しております。

ポイント2:全社の巻き込み


今まではAIを作る人材が注目されていましたが、これからはAIを使う人材にも焦点が当たると考えています。この図の右上象限が事業のコア領域に近く、高いカスタマイズ性が必要な部分であり、内製化しなければいけない領域です。それ以外の部分はSaaSやパッケージサービスを利用することでデジタル技術の活用が進みます。もちろん一部はカスタマイズ性が高いものもあるかもしれませんが、ノンコアの部分はRPAや部分的なカスタマイズで十分対応できます。DXにおいては右上の「会社の競争優位性を決定するような領域」は何かを要件定義して課題を発掘する必要があり、そのためには正しくAIを使う人材が不可欠だと思います。

また、ある一部のAI/IoT系の事業部門の人が理解すれば良いわけではなく、全社的な理解も必要です。そのための組織変革も方々で起きています。今までのデジタルの取り組みは、図の左側のように中央研究所やIT部門に専門チームが作られるようなものでしたが、昨今では事業部のAIリテラシーも強化する流れが起こっています。研究所やIT部門の横串部隊が全社に働きかける役割を担い、同時に事業部の中にデジタルやAIに詳しい人材を育成していくケースが非常に増えています。

これは実際に作った機械学習やシステムを運用するという視点でも非常に重要です。特にAIについて、試作品を作るフェーズにおいても多数の課題がありますが、実際にそれを社会実装し現場で使うと、試作時と同程度に難しい課題が多く出てきます。そのため、PoCから実運用へフェーズが移ると現場のメンバーの協力が必要となり、現場の方へのリテラシー啓蒙が進んでいるわけです。さまざまなアンケート調査でもDXやAIを先導する組織・人材の不足という課題が非常に注目されていて、経産省もDX関連の改革を表彰し「DX銘柄」を選定するなど、どのようなDXの形があるのか、DXが企業でどの程度進んでいるのか理解を進めています。

このような全社を巻き込んだ人材育成については、弊社のお客様にも多くの事例があります。大日本住友製薬様は、中期経営計画の中でデジタル変革を掲げており、社員のAIに対する理解を深めつつ、一人でも多くの実践者を増やす事は重要な経営課題だと認識されていることから、私たちのサービスを使っていただいています。他にもダイキン工業様など化学系の事業を展開されているお客様でDX/AI活用が進んでおり、AIを今後の一般教養にしていくというお話を伺っております。

ポイント3:リーダー人材の抜擢

内製化を始め全社を巻き込む中でAI人材育成、デジタル人材育成が進みますが、次に必要なのがリーダーの抜擢です。イノベーター理論は市場だけでなく組織にも適用されうるもので、AI/IoTの重要性について理解しているイノベーター層は非常に少ないと思っています。そのため最初のDX/AIプロジェクトでは、このイノベーター、アーリーアダプターの方だけで組織を作り、社内のマジョリティ(保守)層を動かすような先進事例を作る必要があると思います。

リーダー人材の抜擢については手を挙げてもらう方法もありますが、弊社の事例を紹介します。こちらは、私たちのAidemy Business Cloudをご利用頂いたあるお客様社内における80名の受講グラフです。「10コース受けてください」と指示された方の多くは当然10コースしか受講しませんが、こちらのお客様だけでなくどの会社でも10%程度の方は、かなり専門的な分野まで自主的に学習します。

特にこれからデジタルの技術を社内で活用するというフラッグシップ事例を進めるためには、このような“異端な人材”の協力を募ることが必須だと思っています。ここではリーダー人材の抜擢と表現しましたが、各事業部のデジタル人材のリーダー候補を発掘できるのが、私たちの教育研修ツールの大きな特徴だと思っております。

DX人材育成サービス「Aidemy Business」

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