この記事は11月19日に開催されたWebセミナー「DXを加速させる!ビジネス実装のためのデータサイエンス」のレポートです。
※記事化のために一部を編集しています。
2020年10月22日、テクノスデータサイエンス・エンジニアリング株式会社(以下TDSE)と株式会社アイデミーの共催セミナーが開催されました。前編に引き続き、TDSEと株式会社アイデミーの共催セミナーの模様をお届けします。講演後、TDSE執行役員の柴田敦氏とアイデミーの桐原憲昭が質疑応答を行いました。
1. DXの推進にあたって、R&D(研究開発)部門や人事部で第一歩として着手すべきことは何か。
桐原
私は人材育成だと思っています。ファーストステップとしてはAIリテラシーの向上に取り組むのが良いと考えますが、要するに社内で共通言語化しなければいけないということなんですよね。部門によって使っている用語の定義やレベルが大きく異なるため、共通言語化が必要になります。
講演では柴田さんが「価値」という言葉を頻繁に用いられていましたが、「価値」とは何なのか、ということです。顧客課題の解決にかかるコストを価値と言えますし、顧客が自社を選ぶ根拠も価値と捉えることができます。この部分をすり合わせて定義できていないと、どうしても議論が空中戦になってしまいます。共通言語化をすることによって、初めて社内でDXの推進が進んでいくと考えています。
また、柴田さんがおっしゃっていた「データサイエンティストは孤立化する」というのはよく耳にするトピックです。データサイエンティストはデータに関してはプロだと思いますが、現場の実務に関しては深く認識していません。一方で、現場側はデータサイエンティストを「データを活用して何でもやってくれる人」のように捉えてしまうんですよね。ここに大きなギャップがあるために、お互いにリテラシーを高めて歩み寄らないと議論が噛み合わなくなります。
ビジネス力を全ての人間が持っていれば良いのですが、そんな人はなかなか存在しないため、ビジネススキルを持っている事業部側の人たちと、データの扱いに長けているデータサイエンティスト、お互いが共通の課題認識を持って取り組んでいくことが非常に重要だと考えています。
柴田
共通言語になっていないのは大きな問題です。また、我々がデータサイエンスの領域で課題解決をする時に気をつけているのが、解決方法です。トップダウンで全社的に解決するのか、もしくは部門の中で始まりそれをボトムアップで全社に広げていくのかによって、取り組み方は異なります。
トップダウンの場合は、難度が高くても全社的な課題であり、一番効果が大きいものから手をつけていくのが良く、全社を巻き込んでスタートします。ただし、成果が出るのに3年ほどかかるという事実をトップが理解する必要があります。
ボトムアップで現場から始める場合には、小規模でも早く成果が出る課題を解決した方が良いです。効果自体は非常に小さい場合もありますが、要するにデータを活用して課題解決をするということに理解のある仲間を増やすということです。現場での小さな成功をいくつか共有して土台をつくり、最後にトップに認めてもらい全社展開させる方法です。
どちらの方法での課題解決をお客様が望まれているのか、という問いからスタートすることは多いですね。
2.データサイエンティストをどの部門に配属すべきか
柴田
大きく上図の3つに分かれると思っています。一つはシステム部門に配置するパターンです。金融機関では、システム部門にデータサイエンティストが配置されているケースが非常に多いと思います。
次に、経営企画部門に配置されているパターン。これはどちらかというと事業側のサイクルが速い業界に多いです。特に小売、流通などでは企画部門、もしくはビジネス部門の一部を束ねて組織を作っているケースがよく見受けられます。
最後は研究開発(R&D)部門です。製品開発や製造プロセス全体の改善を研究していくケースで、製造業が多いです。
また、データサイエンティストをどの部門に配置するかによってデータサイエンティストに必要なスキルが変わってくることには注意が必要です。
ポイントは、ビジネス側に寄せるか、システム側に寄せるかという視点です。
ビジネステーマ。つまり事業において何を解決すべきか。というテーマは事業側の部門から創出されることが一般的です。情報システム部門はその解決を実現するためのインフラやバックボーンを整えます。またシステム側の連携なくしてデータ利活用は成功しません。
データサイエンティストには、「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」の3つが必要と定義されています。
ビジネス側にデータサイエンティスト組織を作った場合、データサイエンティストにはシステム側と連携をするためにデータエンジニアリング力のスキルが必要になります。一方でシステム側においた場合は、ビジネス力のあるデータサイエンティストが重要になります。システム側は、攻めよりも守り。つまりシステムの堅牢性やリスク管理に視点が寄りがちなので、この部分のギャップを埋める必要があります。
先程事例でお話した金融会社では、データ分析組織をビジネス部門の下に置いています。金融では非常に珍しいのですが、システム投資の観点よりも前にビジネス側のアイデアを実現することを土台作りにしていきたいという意図があり、あえて企画側に配置しています。
そのため、弊社からもシステム部門とブリッジできるエンジニア力の強いデータサイエンティストが多数支援しております。一方でシステム部門に配属されているお客様を支援している場合、一緒に案件開拓ができるデータサイエンティストなど、ビジネス側の要素が強いメンバーを中心に支援している形が多いです。
桐原
よくわかりました。柴田さんのお話を伺って、昨今のAIやDXに限らず、これまでも議論されてきた専門家による配置の議論とよく似ていると思いました。
数十年前のERPシステムと同じように、経営企画部門が主導するのか、事業部門か、あるいはITシステム部門なのかと、それぞれ部門毎のミッションがあるのでどうしても衝突が起きるわけですよね。これをどのように束ねていくかという議論と同じだと思います。
柴田
同じですね。ビジネス側とシステム側に溝があるのは、昔からどこでも聞く話ですよね。
桐原
はい。ビジネス側に合わせるのが良いとはよく言われますが、プロジェクトチャーターをしっかりと理解し、そのもとでお互いが何をすべきかを考える、いわゆるプロジェクト検証をしなければいけないと思います。その上で、三者間でビジネス定義ができれば、その後の展開はいかようにもなると思うんですよね。このビジネス課題の定義は三者で協力しなければいけません。
柴田
そのとおりですね。特に欧米では一般的ですが、CXOのようなポストを配置してそこを起点にシステム側を従えるような、横断型の専門組織を作るという形もありますね。
桐原
これまでのCIOに加えて、最近ではCDOやCDXO、CAIOもいると思いますが、そういった役職を置いている組織は増えてきていますか?
柴田
そうですね、システム投資が最終的には大きくなるので、やはりどうしてもCIOやCTOの下に置いているケースの方が多いです。ただ、その場合にはビジネス側を司っている方がサブ的にサポートするなど、接点を強めようとしている動きは見受けられます。システム畑の方では、どうしてもビジネス的な観点でプロジェクトを進めることは難しいので、そこを補完するような流れは非常に多くなっていると思います。
3.データサイエンス組織をビジネス側、情報システム側、どちらに置くと成功可能性が高いのか
柴田
会社の特徴によりますね。データ分析は個人情報に絡むことが多いので、金融のような施策実行のセキュリティリスクが高い業界や、非常にセンシティブな情報を扱う企業の場合、やはりシステム側に置かざるを得ない傾向があると思います。一方で、特にWebや小売のような事業のPDCAサイクルの回転が非常に早く、かつ、Doを実行することのリスクを許容できる企業では、ビジネス側に置く方が成功が早いと思います。
桐原
なるほど。あくまでこれは私の持論ですが、目の前の顧客や市場の変化を学習して、自らの企業のビジョンに照らし合わせて組織を変えていくことがDXの本質であると考えると、顧客接点のあるビジネス側に置く方が上手くいくのかなと思っています。ただ、全ての業種でそうと言えるわけではないので、やはりケースバイケースになるかと思います。
柴田
そうですね。「何を解決したいのか」という点が本質であるのに、DMPの必要性やシステム統合など、キャッチーな言葉に惑わされて手段が目的化してしまう場合があります。特にそのようなツールの導入はシステム部門起点で行われることが多く、意図せずシステム部門の声が大きくなってしまうケースが多くありますので、目的を見失わないことが重要だと思います。
4.データサイエンスチームを組織化しないと成功しないのか
柴田
一部門の中でのデータ活用であれば特に組織化する必要は全くなく、気づいた人が仲間を集めて知見を寄せ集めて行うことはいくらでも可能です。実際に、組織化してもデータ活用に踏み切れないケースも見受けられます。弊社のお客様の事例では、社内で既にデータ分析組織がありながら、可視化や集計という事業側でも可能なタスクを行っていらっしゃった企業様は多くありました。決して、可視化や集計がデータサイエンティストの業務ではないということではなく、大切なのは可視化や集計から導き出された結論から何をするか。という点の理解が不足して作業になってしまっているという点です。
組織化することは目的ではなく、あくまで手段の一つです。ただ、全社的な活動にするためにはやはり“お墨付き”が必要なので、全社の活動に広げるならば組織化した方がいいと思います。
桐原
同感です。おっしゃる通り、DX推進室のような組織を作れば必ず上手くいくわけではありませんが、まずデータ分析をリードする組織はあったほうがいいと思います。ただ、会社全体の受け止め態勢がないと上手く行かないと思いますので、まずは全社的に最低限のリテラシーを身につけさせることによって共通言語化を図るのがよいと考えています。この辺りの全社的なリテラシーの重要性に対する認識が不足しているように感じています。