小売業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞く機会が増えていませんか?
消費者のニーズが多様化し、競争が激化する中、小売業界は新しい挑戦を迫られています。
一例を挙げてみましょう。
CO2濃度をリアルタイムで測定し、データを蓄積。このデータをAIが解析・予測することで、人の動きに応じて風向や風量を自動的に調整し、効率的な空調制御を実現しています。これにより、空調によるCO2排出量を40%削減することを目指しています。
この取り組みは、従来の財務情報に加えて、環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視する国際的な投資の潮流において、企業価値を高める効果も期待されています。また、2024年10月24日から、1年間にわたって、イオンモール羽生店で無人店舗の検証が始まっています。
小売り業でDXを推進すると、オンラインとオフラインを融合させたOMO戦略や、AIによる需要予測など、これまでの方法では解決できなかった課題にも対応できるようになります。
本記事では、小売DXの概要や背景、実際の事例を通して、経営者として今知っておくべきポイントを解説します。
「小売業でDXを推進すると、どのような結果を得られるのか?」を一緒に考えてみましょう。
小売DXとは
小売DXとは、デジタル技術を使って小売に関わる業務やサービスをより良くし、業務の効率化やコスト削減だけでなく、顧客満足度を高めるために、新しい仕組みや方法を取り入れることを指します。
たとえば、ネット通販と実店舗をうまくつなげたり、AIを使って売れる商品を予測したりすることが、小売DXの一例です。特に、経営者であれば、「お店をどうすればもっと便利に、効率よく運営できるか?」と日々考えているのではないでしょうか。
小売DXの事例
さっそく、実際に小売DXを活用して成功した企業の事例を確認してみましょう。
今回は小売業でも有名な企業を紹介していき、日本国内の企業に限らず、国外の企業も紹介します。
イオン
イオンは、全国展開するスーパーマーケットとして、サステナブル経営を推進する中で「脱炭素ビジョン」を掲げています。その一環として、人流データやAIを活用したスマート空調制御の取り組みを進めています。
店舗内外に設置されたセンサー類(カメラや温度計など)を活用し、人流や温度、湿度、
出典:PR TIMES
完全レジレスのウォークスルー型店舗として、店内には天井に設置された32台のカメラが配置されており、重量センサーは使用せず、AIによるカメラ映像の解析のみで運営されています。
利用者は専用のQRコードをスキャンして入店し、購入した商品をレジを通さずにそのまま退店できます。
この仕組みにより、レジ操作や待ち時間が発生せず、スムーズで快適な買い物体験が可能になります。
ローソン
コンビニ大手のローソンでは、セルフレジの導入に加え、AIを活用した発注システムを導入しています。
このシステムにより、売り切れや廃棄ロスを大幅に削減しました。
出典:LAWSON
さらに、従業員の負担が軽減されることで、接客業務に集中できる環境を作り、顧客サービスの向上にもつながっています。効率化とサービス向上を同時に実現した好例です。
Amazon Go
海外の事例では、Amazon Goが注目されています。2018年に公開されたレジなし店舗「Amazon Go」で採用されている「Just Walk Out」決済システムは、カメラとセンサーを駆使して買い物客の行動を自動的に追跡する仕組みを特徴としています。
このシステムでは、購入者が手に取った商品をカメラが撮影し、AIがその商品を認識します。
しかし、Amazon Freshでは、「Dash Cart」を利用する顧客は、利用しない顧客よりも10%多く購入しています。
出典:CNBC
98%の顧客満足度を得ているため、買い上げ点数の多いスーパーマーケットでは、「Just Walk Out」より「Dash Cart」の方が向いているという結論にいたったとされています。
参考:IT media|待ち時間の解消だけではない、レジなし店舗「Amazon Go」の真の狙いとは?
AIやIoTを活用して商品の選択や会計を自動化することで、レジ待ちのストレスを完全に解消しました。
「時間を無駄にしたくない」という現代の消費者ニーズに応えた最先端の事例です。
ウォルマート
アメリカの大手スーパーマーケット「ウォルマート」は、オンラインで注文した商品を実店舗で受け取れる便利なサービスを展開しています。
購入後に送られてくるメールに記載されたバーコードをスマートフォンで表示し、店舗内の専用端末でスキャンするだけで、スムーズに商品を受け取ることができます。
出典:Walmart Inc.
導入した結果、顧客は、宅配物を受け取るために、店員とやり取りする必要もなく、店舗側ではレジ業務に必要な人手を削減できるというメリットがあります。
また、商品受け取りの際に「せっかくスーパーに寄ったし、何か買おう」と思う顧客もいるので、多少なりとも売上向上につながります。
トライアルグループ
トライアルグループは、日本の小売業界のDX推進において注目を集めている企業です。
トライアルグループでは、顔認証技術を利用した決済システムを開発・導入しています。
このシステムは、店舗に来店した顧客が専用のカメラで顔認証を行うことで、財布やスマートフォンを使用することなくスムーズに支払いを完了できる仕組みです。
出典:NEC
特に、小型店「トライアルGO」において効果的に活用されており、少量かつ目的買いが中心の購買スタイルと高い親和性を示しています。
実際にトライアルGOにおける顔認証決済の利用は好評の声が非常に多く、実証実験では、トライアル社員のみならず、取引先のメーカー各社、実験店舗が位置する宮若市の職員など総勢約250名に利用いただき、仮説の裏付けを行うことができました。
引用元:トライアルホールディングス|トライアルグループが「顔認証システム」の開発・導入に本腰を入れる理由
また、商品のスキャン、クーポン表示、関連商品のレコメンド、決済までを一台で完結できる「Skip Cart®️」を活用し、大型店舗「メガセンター」などで導入されています。
小型店舗では、顔認証決済を活用し、大型店舗では、Skip Cartや店内の売場レイアウトを改善するための「AIカメラ」を活用し、トライアルグループは「テクノロジーと人の経験値で世界のリアルコマースを変える」というビジョンを掲げています。
以上の事例だけでも、小売DXがいかに消費者が求めるサービスを提供でき、効率よく経営できているのかが確認できることでしょう。
「自社でも同じような取り組みができるのではないか?」と考えてみてはいかがでしょうか。あなたの店舗や会社でも、前述した小売り業界におけるDX事例と似たような取り組みが可能かもしれません。
次に小売DXが求められる理由についてお話しします。どんな課題があり、それをどう解決できるのか、一緒に見ていきましょう。
小売DXが求められる理由
小売業界でDX推進が求められる理由は3つあります。
- 消費者行動が変化している
- 慢性的な人材不足である
- 経営判断に必要なデータが不足している
小売業界が抱える課題と、DX推進が求められる背景をあわせて解説します。
消費者行動が変化している
昭和や平成と比較し、令和になると顧客の購買行動が大きく変わりました。
2019年12月初旬に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行ったのは記憶に新しいことでしょう。
仕事は在宅ワークで、家で活動することが多くなり、ECサイトで服を購入したり、UberEatsなどの宅配を利用する消費者も多くなりました。
出展:公益財団法人徳島経済研究所|コロナ禍における環境変化とEコマース
要は、オフラインに限った消費行動ではなく、オンラインを活用した消費行動に変化しています。
例えば、アパレルでは、オンラインで商品を比較し、実店舗で購入したり、その逆も増えています。このような動きに対応するためには、オンラインとオフラインをつなぐ仕組み(OMO戦略)が必要です。
たとえば、「この商品はどの店舗に在庫があるのか」や、「ネットで購入して店頭で受け取れるか」など、お客様にとって便利なサービスが求められています。
慢性的な人材不足である
どの業界でも共通の課題ですが、小売業界も深刻です。人手が足りない中で、従業員に無理をさせず、お店を効率的に運営するためにはどうすれば良いのでしょうか?
ここで役立つのが、小売DXです。たとえば、AIを活用した商品発注システムや、セルフレジの導入は、業務負担を減らしながらお店を回す大きな助けになります。
経営判断に必要なデータが不足している
経営者として、「どの商品がいつ売れるのか」「在庫が足りているのか」などの情報は重要です。しかし、これらを正確に把握するのは簡単ではありません。
データを活用したシステムを導入することで、売上や在庫状況をリアルタイムで確認し、正確な経営判断が可能になります。これらの課題を放置すると、競争力を失いかねません。 逆に、小売DXを取り入れることで、お客様のニーズに応え、効率よくお店を運営する方法が見つかります。
次に小売DXが実際にどのようなメリットをもたらすのかを詳しく見ていきましょう。
小売DXのメリット
小売DXを取り入れると、以下のメリットが享受できます。
- 業務効率化とコスト削減ができる
- 顧客満足度が向上する
- データに基づいた経営判断ができる
それぞれの具体的なメリットについて、解説します。
業務効率化とコスト削減ができる
まず、一番大きい要素として、店舗運営にかかる作業やコストを減らすことができます。
たとえば、AIを使った需要予測や発注システムを導入することで、余分な在庫を持たず、品切れも防げます。また、セルフレジやスマートレジを導入することで、少ないスタッフでも効率よく店舗を運営できます。
「従業員が足りない」「無駄なコストがかかっている」と感じたことはありませんか?
そんな悩みをDXが解決してくれます。
顧客満足度が向上する
お客様にとって便利でスムーズな買い物体験を提供できるようになります。たとえば、ネットで注文した商品を店舗で受け取れる仕組みや、AIを活用したおすすめ商品の表示(レコメンド)が挙げられます。
レコメンドは、YoutubeやGoogle検索でも表示されますが、例えばECサイトで、顧客が過去に購入した商品と同じような傾向の商品を購入しているユーザーの購買行動を分析し、「こちらもどうですか?」と購買行動を促します。
実際に私もこのレコメンドシステムで良い商品が提案されたら、同時に購入しています。
私のような消費者が「またこの店で買いたい」と思う仕掛けを作るのは、企業の売上向上だけではなく、ユーザーの満足度も向上します。
データに基づいた経営判断ができる
DXを活用すれば、販売データや顧客の行動データを収集・分析できます。売上の傾向や顧客ニーズを把握しやすくなり、次の仕入れや販促施策に役立てることができます。
たとえば、「どの商品がどの時間帯によく売れるのか」や「どのキャンペーンが効果的だったのか」を把握し、的確な戦略を立てることが可能です。
小売DXの進め方
「小売DXを始めたいけれど、どこから手を付ければいいのかわからない」と感じる方も多いのではないでしょうか?
ここでは、小売業でDXを進める場合の一般的な手順を解説します。
小売業でDXを進めるには、下記の手順を実施します。
- 現状の課題を洗い出す
- DXの目標を設定する
- 小規模で試験導入を行う
- 社員教育と理解を進める
- 結果を分析して全社展開を進める
それぞれ、解説します。
小売DXの進め方①現状の課題を洗い出す
まずは、自社の課題を明確にしましょう。「在庫管理が手間」「お客様のデータをうまく活用できていない」など、現場の声を聞き、改善が必要なポイントをリストアップします。
「解決すべき課題は何か?」を明確にしましょう。これは工場DXでも同じです。
小売DXの進め方②DXの目標を設定する
次に、DXの目的を設定します。「店舗業務を効率化する」「顧客体験を向上させる」「コストを削減する」など、具体的なゴールを決めましょう。
たとえば、「在庫管理の自動化で1カ月の作業時間を30%削減する」など、数値で測れる目標を設定すると効果がわかりやすくなります。
小売DXの進め方③小規模で試験導入を行う
一気に全店舗や全社で導入するのではなく、まずは一部の店舗で試験導入を行います。たとえば、AI発注システムを一部の店舗でテスト運用し、結果を検証するのが一般的です。
試験導入を行うことで、システムの効果や課題を事前に把握できます。
小売DXの進め方④社員教育と理解を進める
新しいシステムやツールを導入する際、現場の従業員にとって「使いにくい」「慣れない」と感じられることがあります。そのため、研修やマニュアル作成を行い、現場の理解を深めることが重要です。
現場の声をしっかり聞きながら進めることで、スムーズな導入が可能になります。
小売DXの進め方⑤結果を分析して全社展開を進める
試験導入の結果をもとに、効果や課題を検証します。必要に応じてシステムを改善しながら、全社展開を進めます。この際、定期的に結果を共有し、進捗を確認することが大切です。
これらの手順を丁寧に進めることで、小売業でのDX推進が成功しやすくなることでしょう。
小売DXを成功させるためのポイント
DXを成功させるには、必要な機器や仕組みを導入するだけでは不十分です。
重要なのは、目的を明確にし、現場の理解と連携を深めることです。あなたの会社や店舗で小売り業を営んでいて、長期的にDX推進を行っていきたい場合には、下記のポイントに注目しましょう。
- DXを推進するリーダーを社内で人材育成する
- 現場の負担を軽減する仕組みを作る
- 経営層が主体的に関わる
- データを活用して改善を繰り返す
それぞれ、わかりやすく解説します。
DXを推進するリーダーを社内で人材育成する
DXを進める上で、現場を率いるリーダーの存在は欠かせません。現場の課題を把握し、解決策を導き出す能力のあるリーダーを育成しましょう。
リーダーは、従業員の意見を吸い上げ、全体をまとめる役割を担います。「誰が旗を振るのか?」を明確にすることが重要です。
社内でDX人材を育成する場合には、弊社のAidemyBusinessがおすすめです。
現場の負担を軽減する仕組みを作る
DXによって業務が効率化される一方で、新しいシステムの導入が負担になる場合があります。そのため、現場の声を聞きながら、シンプルで使いやすいツールを選ぶことが大切です。
例えば、「操作が簡単な在庫管理アプリ」や「LINEを活用した顧客対応ツール」など、日常業務になじみやすいものを選ぶとスムーズです。
経営層が主体的に関わる
DXは全社的な取り組みです。経営層が積極的に関与し、「なぜDXを進めるのか?」を現場にしっかり伝えることが大切です。
また、DXの内製化を目指す場合にも同様で、経営層が目的や期待効果を明確に伝えることで、現場の理解と協力が得られやすくなります。
データを活用して改善を繰り返す
DX導入後も、データの活用と改善を繰り返すことが重要です。例えば、在庫管理システムを導入した場合、売れ筋商品や在庫過多の商品データを分析し、仕入れや販売戦略を見直します。
データに基づいた経営判断ができるようになると、業績改善にもつながります。
小売DXを成功させるには、現場と経営層が一体となり、「目的を共有しながら、継続的な改善を行うこと」が大切です。
小売DXの今後について
小売DXは、現場の業務効率化や顧客体験の向上だけでなく、業界全体の今後を大きく変わっていくことでしょう。
AIや5Gが今より普及する
AIやIoT、5Gなどの技術が進化することで、店舗や流通、マーケティングの形がさらに変わっていくでしょう。
例えば、AIを活用した「完全自動化されたレジ」や、IoTによるリアルタイムの在庫管理が普及すれば、顧客と企業双方にとって利便性が向上するので、AIに知見のある人材も社内に必要になるかもしれません。
製造業DXでも同じようにAIを活用して、業務効率化の取り組みが実施されています。
サステナビリティへの対応と取り組み
環境に配慮した取り組みも、小売DXの重要なテーマです。例えば、デジタルツールを活用して廃棄物を減らしたり、リサイクルに対応した商品の販売を強化する企業が増えています。
顧客も「環境に優しい選択」を望む傾向が強まっているため、「サステナブル(持続可能)な店舗づくり」を目指すことが、競争力向上のポイントとなります。
顧客データを活用したパーソナライズ
顧客データの活用が進むことで、パーソナライズされたサービス提供が当たり前の時代がやってきます。「このお客様にはどの商品をすすめるべきか?」といった個別対応が可能になり、リピーターの増加につながります。
例えば、顧客の購買履歴をもとにした特別オファーや、AIチャットボットによるリアルタイムの対応などがその一例です。
これらの可能性を最大限に活かすためには、テクノロジーの進化を注視しつつ、現場に合わせた柔軟な対応が求められることでしょう。
まとめ
小売DXは、顧客満足度を高め、業務を効率化し、競争力を築くための重要な取り組みです。
- 小売DXは、顧客体験の向上や業務効率化を実現し、店舗運営の課題を解決する鍵となります。
- 実際の成功事例から学び、自社の状況に応じて柔軟にDXを進めることが重要です。
- DXの成功には、リーダーシップやデータ活用、そして現場の負担を軽減する工夫が欠かせません。
これからの小売業界では、DXを通じて「顧客に選ばれる店舗」になることが求められます。
小売業界のDX事例を確認したあとは、自社でどのようなDX推進が可能か考え、DX人材を育成しましょう。