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なぜ AI 人材育成が必要か? – 1.2 ソフトウェアが変えた企業

DX

この連載は、2021年10月19日に行われた 第2期 AI 研究会 第5回「AI人材育成と採用」でアイデミーが登壇し講演した内容を一部編集したものです。

2021年7月から10月に渡って開催された本イベントは、日本経営合理化協会 (JMCA) の会員企業向けセミナーで、株式会社レッジが企画・運営を行いました。アイデミーが担当した講演「企業の DX 推進が準拠する標準ガイドライン」の目次は次の通りです。

1章: なぜ AI 人材が必要か? 2章: 製造業 DX の2つの照準 3章: 逆算的組織戦略の適用
1.1 ソフトウェアが変えた世界
1.2 ソフトウェアが変えた企業
1.3 価値と競争力の源泉
2.1 卓抜の先行事例
2.2 DX の全体像と時系列
2.3 工程革新と製品革新
3.1 勝ち筋を見抜く
3.2 職種定義と組織開発
3.3 DX の劈頭

どの業界にも共通する普遍的な内容を述べた第1章「なぜ AI 人材育成が必要か?」を AI-CAN 限定で公開します。連載2本目となるこの記事は、第1.2節「ソフトウェアが変えた企業」です。

ソフトウェアが変えた企業 _ 7つのメガベンチャー

第1.1節で、ソフトウェアが世界を急速に作り変えていることを述べました。第1.2節では、そうしたビジネス環境の変化に伴い、企業自身も技術を駆使し変革を実現している事例と、またそうした企業が成功している事例を紹介します。

1 Tesla

ソフトウェアがもたらす変化への対応に注力した企業が、従来企業を追い越す場合があるという好例を紹介します。

アメリカの若い電気自動車メーカー Teslaは、創業当初からソフトウェアに着目していました。2020年6月に Teslaの時価総額がトヨタの時価総額を上回り、そのわずか 2ヶ月後の8月にはトヨタの5倍にまで高騰したのです。その後も株価を伸ばし続け、時価総額は一時的に前年比 3倍以上にまで膨れ上がりました [1]。

Teslaはトヨタと異なり、自動車を大量に生産し、大量に販売し、多くの顧客を抱えているかと言うと、全くそうではありません。トヨタは 2019年に アメリカ で200万台以上の自動車を販売したのに対し、Teslaの販売台数は20万台にも届きません。Teslaはトヨタに比べ、販売実績は10分の1未満でありながら、時価総額は5倍も高いのです。

株式市場からの評価が企業の全てではありませんが、市場の評価はその企業への期待も反映します [2]。Teslaの莫大な時価総額は、多くの人が Teslaが今後大きな価値を生み出すと考えていることを意味します。もちろんこれは投資家に限ったことでなく、トヨタを始めとした従来企業、そしてソフトウェアによる転換で先んじることに成功した Tesla自身も、自らの将来の成長を固く確信しているでしょう。

2 Nikola

次世代の自動車産業の興味深い企業として Nikola 社があります。2014年創業の Nikola 社は、電動トラックの生産で アメリカの200万台ものトラック市場をソフトウェア化することを目指す企業で、2020年時点ですでに1903年創業の Ford と並ぶ高い評価を市場から得ていました。

驚くべき点は、2020年当時の Nikola 社はまだ車両の生産すら行っていなかったことです。もちろん高い技術力の裏付けはあるにせよ、製品すら持たない企業と100年以上の実績を持つ伝統企業Fordが、市場から同程度の期待を受けているという事実は注目に値します。

これが示唆するのは、企業を「ソフトウェア中心事業」へ移行させる選択圧の存在です。ソフトウェアによるビジネス環境の変容で、企業は事業モデルの転換を迫られています。市場の支持は、ソフトウェア中心事業への変革を志向する企業に集まっているのです。

3 PayPal / 4 Nvidia / 5 Zoom / 6 Netflix

企業に事業変革を迫る選択圧は、多くの業界で発生しています。2020年10月27日の終値で各業界の代表企業の時価総額を比較してみましょう。

  1. 伝統的な金融サービスを提供する Bank of America よりも、個人間送金や手軽な決済代行をソフトウェアで提供する PayPal が高く評価されています.
  2. 先に言及した通り、トヨタと Tesla でもソフトウェアに強い後者が時価総額では上回っています。
  3. CUDA 等のソフトウェア群で製品の魅力を引き上げている NVIDIA も、同じ半導体企業 Intel 以上の時価総額となりました。
  4. 情報産業の黎明期から通信を支えた “Big Blue” IBM は、近年では付加価値の高い AI サービス Watson の開発もありましたが、急速に普及した Zoom がさらに大きく評価を伸ばしています。
    1. (追記) 2022年1月に Watson 事業の売却が報じられました [3].IBM はさらなる局面を迎えています.
  5. 第1.1節 ソフトウェアが変えた世界 でも言及した Walt Disney Company と Netflix の間では、歴史と時価総額の逆転はまだ実現していないものの、Netflix の成長の著しさを如実に反映しているでしょう。

7 Uber

最後に取り上げる「ソフトウェアが変えた企業」の例は Uberです。「Uber Eats」で広く知られる同社 は、顧客体験の徹底的なデジタル化がビジネスの核になることを理解する良いベンチマークです。

Uber Eats 出現前から「出前」は一般的なサービスでした。それでも Uber Eats がユニークなのは、そうしたある意味でありふれた「出前」を、労働集約でもなく、資本集約でもなく、知識集約的に実現したところです。技術に焦点を絞った「ソフトウェア集約型」と表現してもよいでしょう。

自社に膨大な人材を確保するのでなく、ソフトウェアによるニーズのマッチングで実現した Uber Eats のアプローチには、目を見張るものがあります。正しい市場にソフトウェアを活用して正しく挑めば、飛躍的な成長につながる顕著な例です。ソフトウェアのスケーラビリティが、この成功の鍵と言えるでしょう。

出前館を始めとする多くの「ソフトウェア的出前事業者」の中で「なぜ Uber Eats だったのか?」という問いに答えるのは単純ではありません。マーケティングが効果的だったとか、再現性というより偶然の要素が強かったとか、色々な仮説が立つと思います。

誰が成功していたにせよ、変わらないことは「ソフトウェアでアプローチしたからこそ成功できた」という点です。もしこの市場に労働集約的に取り組んでいたら、これほどの成功の達成は極めて難しい挑戦になったでしょう。

第1.2節「ソフトウェアが変えた企業」では Tesla、PayPal、Zoom、Uber などの アメリカ の技術企業を中心に、市場の変化に適応した企業が成功している事例を紹介しました。 なぜこれほど多くのソフトウェア企業が成功をものにできたのでしょうか?次節ではその答え「新しいビジネス環境における価値と競争力の源泉はソフトウェアだから」について詳説します。

第1.3節 価値と競争力の源泉 に続きます。

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