2020年10月13日、PLY OSAKAとスタートアップが共催するイベント、FsUP(Fujitsu meets StartUP)に、株式会社アイデミー代表取締役社長・石川聡彦が登壇しました。
モデレーターは、富士通の関西システムラボラトリにあるPLY OSAKAの管理人、辻よしふみ氏です。
PLY OSAKAとは、様々な企業、団体、個人のコラボレーションを作り出す場所として、さまざまなイベントを開催してコミュニティーを作り出し、その運営をしています。また、ビジネスやコラボレーションを生み出すため、アイデアソンの開催なども行っています。
今回開催するFsUPもコミュニティ活動の一環です。こちらはPLY OSAKAとスタートアップが共催するイベントプログラムとして、毎回さまざまな企業や団体を招き、先進的な取り組みや提供しているサービスなどの情報を発信しています。
ここからは、石川の講演「デジタルトランスフォーメーションを実現する人材育成と組織作り」の模様をお伝えします。
DXとAI/IoTを社会実装するための組織とは?
さまざまなメーカーで「モノ売りからコト売りへ」というキーワードが出てきています。今までハードで制御していたものも敢えてソフトで制御すると、遠隔操作やアップデートが簡単にできるようになります。それがビジネスを切り替えるチャンスになるんです。
さまざまな企業が、「プロセスイノベーション」から進めて手堅くヒット狙いつつ、最終的には「プロダクトイノベーション」でホームランを狙っていくという形で、AIへの取り組みを進めていると私は認識しています。
では、進めているプロジェクトを実現するために、組織はどうあるべきなのでしょうか。
先日、弊社のセミナーでアンケートを取ったところ、大企業様を中心に「PoCをやったことがある」という答えが8割だった一方、「社会実装にまで進んだ」との回答は1割もありませんでした。
機械学習モデルができあがっても、それを受け止める組織体制を作らなければなりません。昨今、組織やAI人材育成について語られることが多いのは、このような「機械学習モデルのPoC開発と社会学習のギャップ」が背景にあるからなのです。
それを踏まえて、事業部が主導して課題選定する「事業部強化型」への変化が起きています。その一例として、日経新聞の記事をご紹介します。
2020年10月13日の日経新聞「2020年のDX銘柄35社選定」というニュースの中に、富士通様のDXプロジェクトに関する話題が掲載されていました。営業とSEを一体化したビジネスプロデューサー制度は、今までになかった取り組みですよね。
※「DX銘柄」とは、2020年から経産省が認定を始めた政策。2019年までは「攻めのIT経営銘柄」と呼ばれていた。
AIに取り組む組織の「3つの格闘」
組織でAIに取り組むフェーズ1は、経営者がAIの必要性を理解することです。そしてフェーズ2として、SIerやベンチャー企業を巻き込んでAIを試作します。そのままPoC死しないために、フェーズ3で組織育成、一部内製化への挑戦をたどることになります。
現在、フェーズ3にある大企業様が多いようですが、このフェーズの課題として「3つの格闘」が挙げられます。デジタル技術に無縁な経営層との格闘=コミュニケーション、投資対効果を示さなければならない管理職との格闘、さらなる技術習得が求められる現場との格闘です。
ただ、機械学習への取り組みは、管理職もしくは若手どちらかのアクションがあれば驚くほどの変化が見込めると考えています。このような背景から、管理職向けの研修や、若手向けの研修に挑戦する企業様が多くなっているのです。
一問一答
ここからは、セミナーにご参加の皆様からの質問に、組織づくり・人材育成の観点から石川がお答えしました。まずは、AI導入フェーズにおける疑問やお悩みについてです。
Q そもそもDXとは何か?
私は、DXとはAIの内製化、ソフトウェアの内製化だと思います。新しい付加価値をお客様に届けることを実現しようとするなら、フィードバックループを短いサイクルで回して、最初のリリースがあまり優れていなくても、どんどん良くしてくいく体制が必要です。
辻さんも「社内でシステムメンテナンスできるように、短いサイクルで改善するため、どんどんIT人材を採用されている企業さんが多かった」とおっしゃっていましたが、その通りなんです。
そのために完全内製までいかなくても、一部内製にすることだと思いますね。
ただ、これは絶対ではありません。すぐに日本がアメリカのように、エンジニアの8割はユーザー企業にいる、ということにはならないでしょう。
内製化が進むとお客様の意識が変わるので、ITに投資される予算がグッと大きくなります。従来型の開発形態は残りつつ、新しく内製するようなプロジェクトが増える。そういう考え方だと思っています。
Q 内製化が必要な理由を改めて教えてほしい
投資判断の基本として、会社のコア価値に近いものは内製すべきですし、そうでないものは外部のツールを使ったり、外注したりしますよね。DXとは「会社のコア価値をデジタルで作っていこう」というケースが多いので、外注より内製化する話が真っ先に上がってくるという前提があります。
例えば、メーカーの営業活動は基本的にコア価値から遠いので、効率化のソリューションは外から良いものを取り入れればいいですよね。コア価値に近いものというと、カーメーカーなら自動運転のプログラムや、生産プロセス、原価への作り込みなど、各社の競争の源泉になっているものは、内製化の方がマッチしていることになります。
Q 情報システム部門の位置づけはどうなる?
情シスは変えない方向性で進んでいるのではないかと思います。これは銀行の例ですが、「うちにはIT人材はいるが、デジタル人材がいない」とおっしゃいます。おそらく、堅牢でミスをしない業務システムを作ることに長けたIT人材が多いのでしょう。
ただ、昨今の“デジタル”は「小さなミスをしてもいいから、システムをできるだけ早く作ってフィードバックを回す」という設計思想で作られたプロダクトを指しています。そのため「情シス部門」ではなく「デジタルトランスフォーメーション部門」という組織が新しく立ち上げるケースも多くあります。
辻さんもおっしゃるように、DX推進部隊の方は情シスからの異動ではなく、経営企画部門から移ったというケースが多いですよね。今まで“守りのIT”と言われていた効率化のシステムは、引き続き「情シス部門」に任せて、これまでできなかった攻めの部分を新しい事業部に任せよう、という機運が高まっているのではないかと思います。
Q 組織を作らずともAIを使いこなすニーズが出てくるのでは?
未来像としては、その通りだと思います。形式ばった「デジタル推進部」などの部門がなくても、デジタルの技術をツールとして使いこなして、課題解決するカルチャーが浸透するのが、各社のゴールです。ただ、その過程の中で、フラグシッププロジェクトを進めることや、リーダー人材の必要性が出てくるでしょう。まずはそういった方々が担い手になるのかと思います。
また、ルーツは違いますが、AIとアジャイル的な考え方は非常にマッチしています。例えば、再学習が必要であることや、データが取り溜まったときにアップデートすることなどですね。辻さんが「組織もアジャイル的に動けるようにしなければいけない」とおっしゃる通り、AIとアジャイル型の開発は、切っても切り離せない関係なんです。
続いては、運用フェーズにまつわる質問です。導入はしたものの、どうすれば上手く運用していけるのか、現場のリアルな状況から具体的に考えていきます。
Q セキュリティ面での考慮、リスクヘッジ
失敗を前提としたリスクヘッジとしては、人手のオペレーションと協働する期間を、1年程度は作ることです。
例えば、AIのシステムを作って一部のオペレーションの自動化ができても、1年間は協働の期間としておきます。季節によって推論の動き方が変わることもありますし、PoCで精度高く検証できたとしても、プロダクションレベルになると変わるケースも多いからです。
半年でも1年半でも、プロジェクトによって設定は変わると思いますが、安心できる期間の中で実績を作ってからプロジェクトを切り替えるのが、セキュリティ面でのリスクヘッジと言えるのではないでしょうか。
Q AI技術者は社員数の何%くらい必要ですか?
この「AI技術者」が「機械学習モデルを性能高く作るデータサイエンティスト」という意味ならば、数人いればいいレベルだと思います。
ユーザー企業をイメージすると、性能の高い機械学習モデルを作らなければいけないケースは非常に稀です。自動運転など、一部のプロジェクトに限られるはずです。
案件数として多いのは、作ったシステムの安定的な運用など、AIが絡まないデジタルの課題解決です。そのため、ニーズが高いのはモダンな技術を知っている技術者となります。
割合よりもさまざまな部署に点在していることの方が重要で、特定の部門に偏るのではなく、事業部ごとに2~3人必要になってくるのではないかと思います。
AI内製化に向けたアイデミーの支援
当社では、製造業の中でも特に機械系のお客様が多く、そのメインとなる課題は作業効率化となっています。そこで、デジタルと組み合わせたソリューションの提供、いわゆる「モノ売りからコト売りへ」というキーワードが重要となってきます。
私どもが大事だと考えているのは、プロジェクトが進む時にそれを受け止める組織を作ることです。そのため、AIが絡むシステムに関して、さまざまな部門の方の理解や今後の向き合い方といった「受け止め体制」を作るための教育研修サービスを提供しています。
価格としましては、10名様に約1年間ご利用いただいて420万円です。ただし、受講生が多くなるほど、お手頃になります。よくあるケースでは、1名様あたり5~10万円の予算で100名様の研修、といった会社様が非常に多くいらっしゃいます。詳しくはお問い合わせいただければ幸いです。