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AI導入とその後の組織定着を実現する『AI人材育成方法論』【セミナーレポート・前編】

この記事は10月27日に開催されたWebセミナー「人事起点でゼロから始めるAI人材育成 ~AI withコロナ時代の人材育成と組織定着の秘訣とは~」のレポートです。

※記事化のために一部を編集しています。

2020年10月27日、株式会社WizWeと株式会社アイデミーの共催セミナーが開催されました。WizWeから代表取締役社長の森谷幸平氏、アイデミーから取締役CTOの清水俊博が登壇し、AI導入とその組織定着をいかにして行うかをテーマに講演しました。

プロフィール

清水俊博

株式会社アイデミー取締役CTO

東京工業大学卒業後、SIerや株式会社ドワンゴ、SO Technologies株式会社を経て、現職であるアイデミーに参画。エンジニアの生産性を高めることをテーマに、人事業務にも深く携わる。

 

森谷幸平氏

株式会社WizWe代表取締役社長

早稲田大学卒業後、大手小売を経て、語学eラーニングベンチャーでの海外事業の立ち上げ、また、株式会社WEICでEdTechなどに携わった後に、現在の株式会社WizWeを設立。人とデジタルのサポートで学習を習慣化することをテーマに事業を展開。

株式会社アイデミー取締役CTO 清水俊博
組織の生産性を高めるAI導入・人材育成

私は株式会社アイデミーで、取締役CTOとして技術面全般を統括しています。東京工業大学を卒業後、SIerで4年ほど勤務し、株式会社ドワンゴに転職しました。元々エンジニアとして働いていたのですが、エンジニアの生産性を高めることをミッションにした部署を立ち上げました。

エンジニアの生産性を高めるという中で、採用や教育にも関わるようになり、当時会長だった川上氏の鶴の一声で人事部長を引き受けました。エンジニアに限らず、全社員の生産性が高まった方がもっと良いだろうという思いがあったからです。

人事部長として1年半後、紆余曲折あって開発の現場に戻りましたが、その後も「人事畑を経験させていただくエンジニア」という、レアな経歴を歩んでいます。アイデミーには2020年7月から正式にジョインしました。

本日は、日本企業が抱える労働生産性の問題と、AI導入のフェーズに関するお話をさせていただきます。

日本企業が抱える労働生産性の問題

日本は労働生産性が低いと言われ続けています。日本生産性本部という組織(シンクタンク)の資料をご覧ください。左側は2018年のデータですが、OECD加盟国の中で日本は21番目で、先進国の中では低い方であることが読み取れます。

私が問題だと思っているのは、右側のグラフです。

年ごとのアメリカの労働生産性を100として(赤いライン)、それと比較した各国の労働生産性を表しています。日本は下の方にある黒いラインで、やはり右肩下がりになっています。つまり、アメリカに比べると、日本の労働生産性は徐々に落ちていて、差が開きつつあるのが現状です。

日本が一番アメリカに近かったのは1990年です。そこから30年で、パソコンや携帯電話、スマートフォンなどが普及し、インターネットの通信回線も3Gから4G、今や5Gになっていく技術的な革新があったにも関わらず、日本の生産性はどんどん下がっています。

DX・AIへの投資が企業価値を高める

今年、世界最大の時価総額を持つ自動車メーカーがトヨタ自動車からTESLAに変わったというニュースがありました。TESLAは電気自動車で知られている企業ですが、自動車のデジタルトランスフォーメーションに挑戦している会社であることがポイントです。

現在、企業価値を高める上では、DXへの投資が重要となっています。

DXとは、大きく「デジタル技術を活用して、ビジネスモデルやプロセスなどを変革するとともに、競争上の優位性を確保すること」です。DXの中に「人工知能の活用」という考え方があり、人工知能技術の中に機械学習の技術があり、さらにその中に深層学習(ディープラーニング)の技術がある、そういった包含関係にあります。

AIによるプロダクトイノベーションで労働生産性は4倍に

デジタルによる産業の革新は、プロセスとプロダクトのイノベーションに整理できます。プロセスイノベーションは、現在行っていることを効率化することで、プロダクトイノベーションは、新たな付加価値をユーザーに提供することや、新しいビジネスモデルを作り出すことも含まれると考えています。

労働生産性の上昇効果を比較すると、AIやIoTによるプロセスイノベーションでは1.1~2.5倍である一方、プロダクトイノベーションを起こした場合、労働生産性は4倍に増えるという調査研究結果が出ています。

この数字からも、プロセスよりもプロダクトのイノベーションこそ、DXで導かなければならないことがわかると思います。

AI導入のフェーズと人材育成の重要性

プロダクトイノベーションを起こすためにAIを導入する際には、このような4つのフェーズがあります。

人材育成よりもAIの事業定義が先ではないか、とイメージされている方もいらっしゃるかと思います。しかし、実際にAIを活用すると何ができて、何ができないのか理解しておかないと、AIの事業定義はできません。そのため、まずは人材育成だと考えています。

多くの日本企業は最初の「AI人材育成」のフェーズで問題を抱えています。現状として「AIの導入を先導する組織や人材が不足している」と考えている企業が非常に多いのです。

課題解決への第一歩になるのは、人事の方々が「DXによるプロダクトイノベーションが、自社の労働生産性を高めるために必要である」と、理解することだと思います。

実際にAI人材を育成する組織を作る場合、オススメの導入方法としては、まず人事自らが経営陣に提言をすることです。その上でDX推進室などの横串組織を作ります。ポイントは、「アイツが勧めるなら受けてみるか」と思わせるようなキーパーソンを何人か抜擢することです。

まずは横串組織内で教育研修をした上で、抜擢したキーパーソンが元々所属していた部署へ教育研修を企画・展開していきます。さらに、並行して新入社員研修にもAI教育を導入することを、私としてはオススメします。新入社員研修は人事で予算を握っている会社も多いと思いますので、人事部長や管理本部長などを説得することで導入はしやすいのではないでしょうか。

社内でAI人材を育成する必要はあるのか、外注でもAIを使ったイノベーションは生み出せるのではないか、そう考える方もいらっしゃるかもしれません。私は特に、外注への丸投げはお勧めしません。

丸投げした場合、外注の会社がフォーカスしがちなのは、青い丸で囲んだプロセスイノベーションの部分です。このエリアの問題は顕在化していることが多く、パッケージ製品の導入などで解決がしやすくなっています。外注側としては、わかりやすく成果が出るところにフォーカスしてしまう図式になるため、できることはプロセスイノベーションにとどまってしまうわけです。

しかし、これでは本来DXで目指すべきプロダクトのイノベーションには到達できません。このことから、全てを外注に丸投げするわけにはいかないと思っています。

プロダクトイノベーションのためには、AIの事業定義や、PoCの開発のフェーズは内製すべきです。そのためにもまずは、自社内のAI人材の育成が必須になると考えています。

株式会社WizWe代表取締役社長 森谷幸平氏
AI導入後の組織定着に向けた人材育成方法論

私からは習慣化の話をさせていただきます。何かを始めた時に、組織全体で自学自走する人材を作って定着させ、それが風土になるまで続けるという話です。

私は「習慣の科学」と呼んでいますが、組織全体として人間が最後までやり抜くことは、科学的に実現できます。スライドで「人材育成の習慣化」と表現した通り、人材育成は科学的に再度実現できることがわかってきています。

みなさんが悩んでいるのは、組織全体を巻き込んで風土を作るにはどうしたらいいか、というところだと思います。今日は、自学自走する、やり抜く組織を作る、その秘訣についてお話しします。

「なぜ組織定着しないのか」慣性のメカニズム

慣性とは、他からの力の作用を受けない限り、現在の運動状態が変化しない、という運動の性質です。「惰性で続いていってしまう」というジレンマです。

まず組織の慣性についてご説明します。PwCのリサーチでは、日本のGDPをグローバルで見ると、2018年は世界3位、4兆9500億ドル(約550兆円)でしたが、今から10年後の2030年でも、世界4位、5兆6000億ドル(約600兆円)であると。それほど、現在、日本の産業の競争力が強く、売上と利益が出ている状態です。これが実はパラドクスなのです。

私達は、日本の大きな会社に所属すると、利益を生むための巨大なメカニズムによって、行動が方向づけされてしまいます。10年後も世界4位のGDPがあるゆえに、年間、半期、四半期、月次、週次、日次に至るまで、方向付けされた仕事をするように定められています。

これがまさに問題で、入ってくる情報の範囲もそれによって狭められてしまうのです。特に、近代組織の株式会社は、最も合理的な組織ゆえに最も強固で、新しいことを始めるのが難しい。これを政治学者のマックス・ウェーバーは、「鋼鉄の檻」と表現しました。私は、巨大な「組織の慣性」と呼んでいます。

もう一つ大きな問題として「個人の慣性」があります。これは『習慣の力』という書籍に書かれているもので、人間は40%の時間を頭を使わずに慣れで過ごしている、という科学的な研究結果が出ています。

実際に今、私は“講演”という新しい取り組みをしているため、アドレナリンが出て、脳が活性化され、脳の外側が動いているんです。それが、慣れてしまうと、通勤や食事などと同じ「習慣」になって、脳の奥側に行ってしまいます。すると、再度振り返ることもなく、惰性で時間を使ってしまい、気がつくと「あ、しまった!1日が過ぎてしまった」、ということになります。これが、人間の脳の宿命です。

つまり、組織の慣性・個人の慣性があるため、新しいことを始めようとしてもなかなか定着しない悲しい宿命があります。これをどうにかしようというのが、習慣の科学です。新しいものを定着させる仕組みですね。

当事者意識を生む自律自走のメカニズム

習慣や新しい行動の定着は、個人という一人には帰属しません。

左が冷たい集団、右が熱い集団です。上手く行うには集団の巻き込み、チームのセットアップが必要不可欠で、人事部が果たす役割は非常に大きいです。

(図で説明します)社会学者・政治学者のミシェル・フーコーによると、「何かやりましょう!」という上意下達の命令(スーパーパワー)だけでは、人は動きません。例えば、今講演している私が、皆さんの心を揺さぶって動かすことは難しいです。

ただ、みなさん自身が発話してコミュニケーションをとりながら、目標をセットアップして「そこに向かって走りましょう!」と言った瞬間に、力学がガラッと変わります。これがフーコーの言うマイクロパワー、私が「チームの力」と呼んでいるものです。

これは、リクルートに代表される生産性の高い組織で実証実験が行われています。リクルートの人事制度を作ったのは、創業メンバーで心理学に精通していた大沢武志さんで、著書の『心理学的経営』では「圧倒的当事者意識」について語っています。当事者意識とは、自分が所属するチームに芽生えるものです。そこで重要なのが、小集団、小さなチームの力です。そこでのコミュニケーションや、目標設定が強いということなのです。

また、2019年にベストセラーになった『1兆ドルコーチ』は、Googleのコーチであるビル・キャンベルについて書かれた書籍です。天才集団のGoogleですが、実は組織のコンディションが悪くなって、マネジメントが機能しなかった時期もあったのです。Googleという会社であっても、誰かを中心としたスモールグループの組織力が必要でした。彼らは今、マネジメントについて研究を重ねています。マネージャーを中心とした組織設計が、生産性の向上について非常に重要だったということですね。

これがチームの力です。ここを使うだけで一気に習慣となり、何かを継続する力が上がります。ただ、それだけでは上手く行きません。ビル・キャンベルが言っているのは、責任者の巻き込みです。タスクフォースやプロジェクトから、元のチームに戻った人を取り巻く日常の生活空間がとても重要です。その人を後押しする役である直接の上司を巻き込むだけで、チームはガラッと変わります。ここをやっておくだけで、大きなレバレッジがかかってきます。

ただ、ここでセットアップしたからといって、それで終わりではありません。継続習慣、自律自走を生むとなったときに重要なのが「伴走」「見守り」という言葉です。

「やり抜き」を実現する伴走のメカニズム

伴走者がいること、そして科学的かつ体系的に伴走すると遂行できます。一方で、テクノロジーの進化で、取り組めば成果が上がるツールは多く出てきました。これさえやり終われば、すごくいい成果が上がるんです。問題は、放っておくとやらないというところですね。そこで、私がオススメしているのは、伴走の科学です。

コーチなどの専門家ではなく、人事部のスタッフでもいいのです。常に誰かが見守って、ずっと声かけをすれば、終わっていきます。

専門的な知識は分解することができるので、セットアップします。これはカスタマーサクセス、という言葉に表れています。

人が行っていた「伴走」を3つに切り分けてみます。

まずハイタッチ、人手を使った手厚い支援です。コンサルティングなどの個別支援がそれにあたります。次にロータッチ、やや自動化された半自動の支援です。電話やメールでのサポートが該当します。そしてテックタッチ、自己解決や自動化を使った支援です。ヘルプセンターや自動メール、ウェビナー、ノウハウ共有動画などを指します。重要なのは、ロータッチとテックタッチを行うことです。

人間がやってきた「伴走」は、この3つの組み合わせで設計できます。人事の検証単位は6ヶ月であるケースが多いため、180日分という単位でセットアップすると、面白いように完了率が上がっていきます。

我々はスマートハビットというプラットフォームにそれを落とし込み、メンタリングスタッフが専用システムを使ってみなさんの伴走をしていくため、極めてローコストで「伴走」がセットアップがされるようになっています。

スマート時代のInput/Output 習慣化の秘訣

インプットとアウトプットについても、やり方が重要です。「座学で1時間学習しましょう」では、なかなか今のスマートライフ時代にワークしません。

インプットで大事なのは、スマートライフに適応した「マイクロラーニング」という概念です。スマートフォンで見られるような短い動画を活用して、2~15分程度の隙間時間を複数回確保する形に設計します。

アウトプットについては、コミュニケーションをとるだけで大きく変わります。集まって、学んだ内容を、発話して共有することが重要です。今やICTツールのウェブ会議やLINEなどで、簡単にアウトプット=学びの共有ができます。これを、月に1回だけでもセットアップすると、チーム内でフォローが回るようになります。私はこれを「マイクロアウトプット」と呼んでいます。

90%が最後までやり抜く中、失敗した10%とは?

最後に、典型的な失敗パターンを3つだけお伝えします。

完了率が平均90%以上ということは、10%は失敗しているわけです。

最初の典型的なパターンは、スタート前の段階で目標設定が明確ではないケースです。

スタート段階で、ゴールへの「旗」を立てること、つまり経営メッセージや、人事の教育責任者、教育担当者から何らかのメッセージが出ていなければいけません。習慣は個人に属するものではなく、チームや組織に属するものだからです。

次に要注意なのは、均質的な集団です。皆が若く均質的で社会人経験が少なく、内定者時代の緊張感が抜ける時期、かつ、目標設定が明確でないケースです。特に、新卒研修などはワークしづらいと思います。習慣はチームに属するものであるため、均質的な研修は失敗する場合が多いです。

最後は、受講者の方が睡眠時間を削るような巨大な納期を抱える職種(時期)であるケースです。例えば、広告代理店、コンサルティングファーム、SIerの方で繁忙期にある場合は難しいです。習慣化は日常に属するというのがポイントです。

(前編ここまで)

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