目次
登壇者紹介
アイデミー代表取締役社長
石川聡彦
みずほ銀行執行役員イノベーション企業支援部長
大櫃直人氏
モデレーター
アイデミー
エンタープライズサービス部長
桐原憲昭氏
金融業もDXによって、プレーヤーが変わった
株式会社アイデミーの石川聡彦と申します。これから「銀行のデジタルトランスフォーメーションに向けて-AI導入における3つのポイントとは?-」というテーマでお話をさせていただきます。
本日は、みずほ銀行の大櫃直人さんをゲストとしてお呼びしました。銀行を中心とする金融業全体のDXについて、お話いただければと思います。
当社では、AIの内製化支援というコンセプトで、AI人材の育成やAIの共同開発など、従来のAIベンチャー企業の受託開発型のモデルとは違った支援を行っています。
背景として、世界時価総額ランキングの顔ぶれの変化があります。この30年間で、世界のトップ10のうちのほとんどをデジタル企業が占めるようになりました。
こういった変化は、デジタルの領域だけではなく、金融の世界にも大きく及んでいると思っています。この30年で、経済は金融・メーカー主導から、ICT・データを活用したデジタル企業主導に変貌しました。これこそ、私たちがAI内製化支援をコンセプトにする大きな理由です。
全ての産業で、ICT・データを活用した企業が市場から高く評価されています。業種業態を問わず、古典的な大企業ではなく、新興企業に注目が集まっています。金融ではPayPalなどがその代表例ではないでしょうか。注目される企業の共通点としては、デジタルを戦略的に、特に社内で作り込んでいることが挙げられると思っています。
金融業におけるDXの在り方
昨今、こうした変化は「デジタルトランスフォーメーション」として語られています。私は、デジタルの技術を使うことで、お客様との接点を変えることができると思っています。
この数十年で、金融業界でもエンドユーザーのニーズが細分化しているのではないでしょうか。そうなると、顧客との接点を担うような法人営業のあり方も大きく変化すると思っています。
従来の伝統的な金融のモデルは、融資を含めた強みをベースとして、そのニーズをお客様に提案する形だったと思います。今は、お客様の融資ニーズが顕在化しているケースは少なく、潜在的なニーズとして、例えばデジタルを使った投資や新規事業を興すことなどをお考えの方が増えていると思います。
法人営業の方は、お客様とお話しすることでニーズを汲み取り、金融商品のご提案につなげていくものと認識しております。デジタルの技術を用いることで、お客様との関係性もZoomなどを介して高い頻度で密接に作れるメリットもあるかと思います。各種デジタルの技術を使うことで、新しいお客様との関係性のあり方が、金融のみならず多くの業界で変わっていくものと考えています。
私たちアイデミーの切り口は、日本企業のAI活用の課題は組織開発であるということです。これが最も大きなボトルネックであると考えています。こちらは、各国の課題感に関するアンケート結果です。日本が一番の課題とするのは「AIの導入を先導する組織・人材の不足」であり、ここに世界との差分が如実に表れています。こういったことから、私たちは組織開発をご支援しています。
各社様にとってAI、DXの活用を行うベースとなるのが、DX人材の育成、AI人材の育成だと思っています。アイデミーは、DX人材と協働して、新規事業の開発なども含めて内製化支援を行っています。その中の一番キーフレーズである、人材育成についても、最後にお話できればと思います。
ここからは大櫃さんにお話しいただきます。どうぞよろしくおねがいいたします。
みずほ銀行 大櫃直人氏
私からは、金融機関・銀行のDX化についてお話をさせていただきたいと思います。
私が銀行に入りまして三十数年になります。ここ8年はスタートアップ支援ということで、支店長、ならびに、現在のイノベーション企業支援部長を歴任しています。
今日では、銀行内部のDX化と、私どものお客さまのDX化の両面において、スタートアップの存在が大きくなってきていると考えています。
そんな中で、私はたまたまメルカリ社やマネーフォワード社などの成長企業と創業期からお付き合いをさせていただいており、ベンチャーキャピタルによるエクイティマネーと併用して、 創業期からの融資という形で、お客さまの成長をサポートしてきました
私どもは「みずほは、“未来”の創造にコミットする」をキャッチフレーズとして、スタートアップの支援に取り組んでいます。私どもが考えるエコシステムとして、スタートアップ企業、そして大企業、さらにはこれを支える大学やベンチャーキャピタル、あるいは士業を中心としたファーム、これらをしっかりと回していくことが、日本のイノベーションを支える、あるいはスタートアップの成長をサポートすることになるわけです。
引用:みずほ銀行 大櫃直人氏講演資料より一部抜粋
大企業自らがDX化を進めることが難しくなってきている中で、スタートアップの力を借りながら、オープンイノベーション、すなわち、このエコシステムをしっかりと回していくことが大事だと考えています。
イノベーション企業を支援する会員サービス「M’s Salon」
私どもはスタートアップ支援ということで、M’s Salonという会員サービスを運営しております。。現在3000社以上のお客さまにご参画いただきながら、大企業とスタートアップのビジネスマッチングの場をご提供し、その機会の創出にあたっております。その中で、たくさんのDX化の動きが出てきていることを感じております。
「M’s Salon」では、商談会やピッチイベント、各種セミナーなど、様々なコンテンツを通じた出会いの場を提供しております。
【ご参考】イノベーション企業の成長を加速させる様々なイベント
「みずほ版エコシステム」を通じたDXへの取り組み
今年4月には、オンラインで大企業とスタートアップのM&Aニーズをマッチングさせる「み
ずほイノベーションプラットフォーム」を立ち上げました。
すでに300社近くの大企業にご参加いただいております。
またグローバル連携として、イスラエル、インド、深セン、北京、シリコンバレーなど、DX化が進んでいる事例を大企業にご紹介することも行っています。
こういった取り組みを通じて、DXに不可欠なオープンイノベーションを推進すべく、「みずほ版のエコシステム」を回しています。特に、担い手となるスタートアップ企業の成長、あるいはそれをサポートをすることが、結果的に大企業のオープンイノベーションやDX化に資すると考えています。
一方、銀行内部のDX化という意味では、アイデミー様にもご相談させていただきながら、若手人材の教育・育成にも取り組んでおります。大企業のDX化に限らず、これを中堅・中小企業に広げていくために、金融機関として何ができるのか、どういうサービス提供・提案ができるのか、という点も重要です。若手行員を中心としたDX化の基礎的な用語や考え方の習得 、あるいは中堅・中小企業が使えるツールのご紹介といった部分まで踏み込んで、お客さまのサポートをしていきたいと考えています。
各業界におけるDXの現状と金融業のDX化を阻む要因
進行:
銀行と他業界を比較したDXの取り組みの違いを、それぞれお伺いできますでしょうか。
石川:
私からは、各業界業態における、DXの現状についてお話しします。
今、営業とIT人材の融合という形が動き始めていると思っています。特にSIerのケースなのですが、もしかしたら銀行も該当するかもしれません。
先日、経産省と東証が組んで、DXが進んでいる企業を「DX2020銘柄」として表彰するというニュースがありました。日経新聞で紹介されていたのは富士通の事例で、SEと営業を一体化したビジネスプロデューサーという制度を作り、区分けを外していこうという取り組みでした。
他にも、SIerの中には、いわゆる伝統的な営業として案件を獲得するメンバーがデジタルの技術を知らないままでは、スピード感を持ってお客さまの期待に沿う提案ができない、というお話を非常に多く伺います。
あらゆる業界で、デジタルが絡まない案件やお客様のニーズ、新製品、サービスなどは、もうほとんどないのではないか、と思っています。
今までデジタルという技術に縁遠かった、いわゆる“文系人材”と呼ばれる方も学ばざるを得ない環境下にあると思います。そういった変化が、さまざまな業種業態で起きているのではないか、と認識しています。
進行:
金融業界に身を置かれている大櫃さんは、DXをどう捉えていらっしゃいますか?
大櫃:
例えば、銀行の決済業務で考えますと、やはり安全性が求められます。お客様の利便性を考えてDXを進めていくのは当然なのですが、あまりにも大きくなったシステムは、ひとつ触るのにとても莫大なお金がかかります。なおかつ、そこには大きなリスクが伴うため、なかなか進んでいないのが実情です。
一方で、銀行法上の規制を受けていないような、新しいスタートアップを中心としたサービス提供者が続々と金融の世界に入ってきているため、当然、金融機関あるいは銀行として、そこで戦っていかなければなりません。だからこそDX化は避けられないテーマではあるのですが、なかなか進みづらいということがあります。
一つの要因として挙げられるのは、話題の“ハンコ”の話です。これがまさに行政手続きの話で、銀行においても、事務手続きではDX化が進行していると思っています。そして、このことに反対する人はあまりいないと思います。
画像:Adobe Stock
ところが、岩盤の規制改革に踏み込んでいくと、当然、既存の既得権益者から大きな反対が出てきます。銀行においても、行内で誰かが大きな壁を建てて反対しているわけではないのですが、手続きから1つ、もう1つと踏み込んで行くと、さまざまな部門が関わってくるため、部門間の調整に時間がかかるようになります。さらに、1つ改革すると人員が余ってくるかもしれないため、その人員シフトまで踏み込んで「本当にこれをやるんですか?」という議論が出てくるわけです。
できない理由はいくらでも並べられますから、岩盤に踏み込む時には、経営者の覚悟や腹落ち、浮くかもしれない人員シフトの先までしっかりと手立てをして、考える必要があるのだろうなと思います。
これが今、本当に銀行が直面している課題であり、そこにいろいろな金融機関が一歩を踏み出しているということかと感じています。
AI導入を成功させるための課題
進行:
広い概念であるDXの中でも、とりわけ脚光を浴びているのがAIです。AI導入を成功させるための課題、ポイントをお聞かせください。
石川:
AIを実運用化させることを考えたとき、課題は技術的ではない部分に多く現れます。組織課題や、大櫃さんのお話にもあった、既得権益化してしまっているステークホルダーへの粘り強い説得にリソースが割かれてしまう特徴があるのです。
そのために必要なこととして、AIの人材育成が挙げられます。
AI人材育成において、中でも非常に重要で必要なことは、リーダー人材の発掘です。組織の視点で見ると、AI人材がどこにいるのか、その人材がAIを担当する適切なリーダーだと任命されているのか、チェックしなければいけません。
リーダー人材が旗振り役となってプロジェクトを進める中で、さまざまな困難に直面した際、AIに対する社内の理解が進んでいなければ、反応は乏しく冷たい雰囲気になってしまいます。それを避けるためには全体的なリテラシーを底上げし、AIを深く知ってもらうことが大事になってくると思います。
まずリーダーを抜擢する、そしてそのリーダーが仕事をしやすい環境を作る。この2段構えで、AIの人材育成が必要です。AIのリーダーと、それを支える人材、という両者が必要になってくると思います。
進行:
AIと聞くと技術を連想しがちですが、人や組織がより重要だということですね。
続いて大櫃さんにお聞きします。多くのベンチャー企業と接しているご経験から、AI導入を成功させる秘訣や課題感について、どのようにお考えですか?
DX推進のためのシステム内製化
大櫃:
昨年末からコロナ禍以前、今年の年初にかけて、AIを推進しているスタートアップの企業から、6社連続で売却のご相談を頂戴しています。それぞれとても優れたメンバーが集まっている会社で、みなさん共通して大企業との実証実験はとてもうまくいっているといいます。では、なぜ売却するのか。
実は、大企業の実装化が進まないというのです。これがまさに課題です。
今、日本の大企業の大半は、みずほもそうですが、システムを内製化せず外注しています。ベンダーの方々とAIを提案している方々との間に知識の差があり、これを埋めるようなプロジェクトマネージャー、トランスレーター、データサイエンティスト、データエンジニアといった方々がいない、というのが1つのポイントとなっています。
結果として、そのギャップが埋まらないまま実装化されず、実証実験で終わってしまっている事案を多く拝見しています。
中には、要件定義から外部に委託している企業もあります。まさに“丸投げ”ですが、受託した企業からすると「その業種のことがよくわかりません」、委託した側は「AIのことがよくわかりません」ということで、会話が成立しないようなことが起きてしまっています。
先ほど石川社長がおっしゃったように、内部でしっかりと人材育成、あるいは中途採用して、自分たちの業種、業界、自社のことを勉強してもらわない限り、AIを使ったDX化は進んでいかないのでは、と考えています。
進行:
大櫃さんから「内製化」というキーワードが出てきました。石川さんから、内製化についてのお考えをお聞きできますでしょうか。
石川:
私が考えるDXの定義は、ソフトウェアを内製化することです。
ソフトウェアを内製化しなければ、お客様のフィードバックをベースに、スピード感を持ってプロダクトを改善することはできないからです。
発注者と受注者の会社組織が分かれていると、要件定義に書かれていない内容は受注者側から提案しにくい、という構造的な問題があります。
一方、発注者と受注者が同じ社内の組織であれば、実際に作ってみた上でより良くするための提案を社内でぶつけることができるため、良いものづくりができます。このようなことから内製化が必要であり、そのための人材育成も必要であると考えています。